3軒の本屋


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3軒の本屋

私の住む人口4万人余りの町には、本屋さんが1軒もありません。私が30年前に引っ越してきた時には、自宅から10分圏内に3軒の本屋がありました。1軒はとても良い感じのする老夫婦が営む小さな書店でした。もう1軒は大きな書店でしたが、挨拶もろくにしない嫌な感じのする店で、残り1軒については特に記憶はありませんので並みの本屋だったと思います。このような訳で、私はいつも感じのいい老夫婦の書店を贔屓にし、本を買うときにはそこで買っていました。

 

ところがある日、書店には並ばない専門的な本を注文したところ、その老主人はいろいろ調べた挙句、普段のにこやかな表情は一変し、この出版社は扱えませんとにべもなく断り、その態度はいかにも有り難迷惑だと言わんばかりの不満の表情が現れていました。仕方なしに特徴のない並みの本屋に頼んだところ、やはり入荷できないという返事。そこで致し方なく、感じが悪いので普段は利用しなかった第3の店にダメもとで注文してみた。頭を傾げたりしていたので、やはりダメかなと思っていたところ、いろいろと資料を引っ張りだし電話をしたりしていたがやがて、「注文受けました」、とぶっきら棒に答えた。でもこの間、私の姿も目に入らないように一心不乱に探しまくっていた姿勢は普段の様子からは想像できないものがありました。数日して目的の本が入手できたとき、私の評価は一変した。

 

普段いくら愛想が良く、善人のように振舞っても客の求めに応じられないのでは本末転倒。挨拶がまずくても、客が困っているときには目的を叶えてくれる方がマシだ。でも、本当は愛想が良く、しかもこちらの求めに応じてくれるのが理想的であるが、現実には、天は二物を与えず、と言うようにそううまくはいかないようだ

 

今、世界的に求められていることは、普段の決まりきった仕事(ルーチンワーク)をそつなく処理することではなく、未曽有の事態にリスクを冒してでも素早く対応できる、有事への対応力である。

 

 

余談だが、その後間もなく老夫婦の書店がつぶれ、次に並みの書店がつぶれた。感じの悪い書店は残るかと思っていたが、やがてそれもつぶれた。他の地域の書店もつぶれたようで、遂にこの町から書店は消えた。

余談の余談

本屋が消えて町は衰退するかと思いきや、人口はわずかながら増加して右肩上がりである、そして飲食店の数は増えつつある。

教養よりも、食い気が旺盛な明るい町である